最判昭和43.10.17(昭和41年(オ)第238号)

総則

はじめに

所有者から「外観1」(仮登記)の作出を依頼された者が、それに基づいて「外観2」(本登記)を作出し、その登記を信じた第三者が登場した場合、§94 IIの類推適用では第三者は保護されない。「外観2」作出に所有者が関与せず、帰責性が弱いからである。すると依頼者の帰責性がなくても責任を負わなければならない条文を探すと§110がある。§110は直接適用か類推適用か? また§94IIとの関係はどのようなものか?
本判例は、この問題に対する最初の判例である。大いに学びがいがある判例である。そのように感じることができるだろうか?

出典

民集第22巻10号2188、LEX/DB:27000909当事者関係

当事者関係

X:本件不動産所有者(原告、被控訴人、被上告人)
Yら:本件不動産登記名義人(被告、控訴人、上告人)
Y1:Bからの「譲受人」
Y2:Y1からの「譲受人」
A:無権利者、Xからの「譲受人」
B:Aからの「譲受人」

時系列表

A、個人名義の財産をもつていないと取引先の信用を得られないから、第1、第2不動産の所有名義だけでも貸して欲しい旨Xに申し込み
S.30.11.15 X、A合意の上売買予約を仮装し、所有権移転請求権保全の仮登記
S.31.07.05 A、Xの印鑑、登記申請の委任状を偽造して用いて仮登記を本登記に替える

XからAへの「所有権移転登記」

S.31.09.07 AからBへの所有権移転登記了
S.32.01.04 BからY1への所有権移転登記了(第1不動産・第2不動産)
S.32.03.25 Y1からY2へ所有権移転登記了(第2不動産のみ)

 

訴訟物・請求の趣旨

事件名が「所有権確認等請求事件」となっており、「所有権確認」と「移転登記請求」をXが求めている。先ず確認訴訟の訴訟物について考える。当事者間に権利が存在することを確認するのは、裁判所である。そして訴訟の対象となるのは、確認される権利そのものである。したがって訴訟物は「Xの所有権」となる。「Xの所有権確認請求権」ではない。
次にYらからXへの所有権移転登記請求権についてである。登記名義人がYらであるので、その登記名義をXへ戻すことを請求する。この場合、Yらの所有権移転登記を抹消しても、登記名義がBに戻るだけである。さらにB、Aの登記をそれぞれ抹消しなければならない。そのような迂遠な方法を回避するために、Yから直接Xへ移転登記することが請求できる。他人名義の登記があることは§206での「処分」が妨害されているので、物権的請求権の種類は妨害排除請求権である。
訴訟物1:Xの所有権
請求の趣旨1:「XとY1、Y2との間においてXが本件不動産につき所有権を有することを確認する」
訴訟物2:XのYに対する本件不動産所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権
請求の趣旨2:「Y1、Y2はXに対し本件不動産につき所有権移転登記手続をせよ」
判旨
Yの上告に対して判旨は「破棄差戻し」であるので、「Xの請求棄却?」ということになる。

判例分析

判決理由中Xにとって有利な部分と、Yにとって有利な部分を分析していこう。

思うに、不動産について売買の予約がされていないのにかかわらず、相通じて、その予約を仮装して所有権移転請求権保全の仮登記手続をした場合、外観上の仮登記権利者[A]がこのような仮登記があるのを奇貨として、ほしいままに売買を原因とする所有権移転の本登記手続をしたとしても、この外観上の仮登記義務者[A]は、その本登記の無効をもつて善意無過失の第三者[Y1・Y2]に対抗できないと解すべきである。けだし、このような場合、仮登記の外観を仮装した者[A]がその外観に基づいてされた本登記を信頼した善意無過失の第三者[Y1,Y2]に対して、責に任ずべきことは、民法94条2項、同法110条の法意に照らし、外観尊重および取引保護の要請というべきだからである。
今叙上の見地に立って本件を見るに、原審の認定したところによれば、前示のごとくAがほしいままに仮登記に基づく本登記をなした後、本件第一、第二の不動産は登記簿上、AよりBを経てY1に、さらに本件第二の不動産はY1よりY2に移転しているという以上、原審はすべからくYらは本件不動産の取得につき善意無過失であつたかどうか、すなわち、Xは本件の本登記の無効を以てYらに対抗できるかどうかについて、審理すべきであつたのである。しかるに、原審は何等この点について判示するところがないのは審理不尽の非難を免れない。本件上告は、この点において理由があるものというべきである。

判例解析

【X1番枠】

訴訟物1の所有権確認請求が認められれば、訴訟物2の所有権移転登記請求権も認められるので、解析は訴訟物1だけについて行う。
訴訟物が「Xの所有権」である。確認訴訟の場合、自己に所有権があることを主張するだけでは不十分である。法的紛争を裁判所の確認によって1回の訴訟で解決する「確認の利益」が必要である。具体的には、YがXの所有権を否定して争っていることである。

【Y1番枠】

XがAに所有権を移転して喪失したことだけ言えばよいのかもしれないが、自己に所有権があり、§177に基づきそれをXに対抗できると主張したとしたい。実を言うと【Y1番枠】で「所有権喪失の抗弁」を出して【X2番枠】でXからAへの所有権移転の無効を言ってもよいのだが、そうすると登記については触れずに【Y2番枠】で§94II類推適用の問題へと至る。原審ではAがXに無断で仮登記を本登記にしたものと認定されている。この部分を活かすとすると【Y1番枠】で対抗要件である登記を登場させてみた。

【X2番枠】

Xは当然Aに所有権移転の事実はなく、無権利者であり、原審で認定された通りAがXに無断で仮登記を本登記にしたことを主張する。そしてAの登記の無効、さらには無権利者Aからの権利取得ができないことを言うことになる。

【Y2番枠】

そこで無効な登記であっても、それを信頼した第三者が保護されるものとして、§94 IIの類推適用が登場する。判決理由中の「民法94条2項…の法意」である。「〇〇条の類推」はもちろんのこと「〇〇条の法理」、「〇〇条の趣旨」ときたら、「〇〇条の類推適用」を意味すると思ってよい。類推適用では、直接適用ができないけれども(ⓧ要件否定を「¬ⓧ」と表現する)、その要件に類似する事実がある(「ⓧ’」と表現する)ということを明確にしなければならない。「類推適用はこじつけ」であるから(最判昭和29.08.20(昭和26年(オ)107号))、「こじつけ」に説得力を増すには、この明確性が必要である。

【X3番枠】

それに対して、Xは「外観2」(本登記)作出に関与していないので、「外観2」作出の帰責性がないことを言わねばならない。それによってYら主張の§94 IIの類推適用ができないことに持ち込むことを画策することになる。

【Y3番枠】

そこで、判決理由中の「民法…110条の法意」の登場である。① 登記は法律行為でないし、② 顕名をAがするわけでもない(強いていえば、登記所に対してXの代理と顕名する可能性はある)。④ ①をするAの代理権を信じたわけでもない。この辺りを丁寧に説明することが重要である。何を「信じた」のか?これはAの「外観2」(本登記)を真正なものと信じたことを意味する。つまり「外観2」が虚偽であることを知らなかった(善意)ことである。そうすると§94 II類推の「善意」と§110類推の「善意」の内容は同じことになるが、さらに「正当な理由」(=無過失)が第三者に求められることになる。

解析結果

Xの主張

Yの主張

1.所有権確認

① X=本件不動産所有者

②  確認の利益(Y1、Y2がXの本件不動産の所有権を否定して争っている)

対抗要件具備【§177】

① 不動産

② 物権変動(X→A→B→Y1→Y2)

③ Y1・Y2登記具備

∴ XはY1・Y2に②の対抗不可

AがXに無断で仮登記を本登記にしたもの[原審判断]

・Aの本登記は無効な登記

・A=無権利者

∴ Y1、Y2=無権利者からの権利取得不可

§94 II類推適用

¬① 意思表示

①’ 登記=意思表示の結果を公示

② 真実の権利者:X

≠外観上の権利者(登記名義人):A

¬③ 通謀性

③’ 通謀性と同視しうるXの帰責性(Aに虚偽の「外観2」(本登記)の作出に関与)

④ Y1・Y2の善意(登記信頼)

∴ Y1・Y2に対して、Xが登記の無効を対抗できない

Aが依頼したのは虚偽の「外観1」(仮登記)

虚偽の「外観2」(本登記)作出はXに無断でなした

∴「外観2」の作出にA関与せず

§110 類推適用

¬① Bの権限外の法律行為

①ʼ Bの依頼外の虚偽の「外観2」作出

¬② 顕名

②ʼ Aに効果帰属させる意図

③  ①をする以外の理権(=基本代理権)

(虚偽の「外観1」作出の代理権)

¬④ Aに代理権があると信じる

④’ 虚偽の「’外観2」が真実であるとY1、Y2信じる

⑤ ④につき正当な理由(=無過失)

⇒「外観2」の作出に関与しなくてもXが①’ 「外観1」の責任を負う

終わりに

§94IIと§110の類推適用についての最初の判例である。基本判例として勉強する価値が非常に大きいものである。ただし、判例は単に「民法94条2項、同法110条の法意」としか言わず、どのように類推したかがわからない。そうであるからこそ法適用学の出番でもある。
実際の上告理由では§94 IIも§110も触れられていない。当事者の主張は大事であるが、それに拘泥せず、それよりも重要な判例論理の展開を追うこと、判例論理によれば、当事者が主張するであろうことを想定しながら解析を進めていくことこそが、法適用学では求められる。

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