最判昭和57.06.08(昭和56年(オ)988号)

総則

はじめに

「第三者」(§94II)は、当事者以外の者であるのは当然だが、それ以外に講学上虚偽表示に基づき「新たな、独立した、法律上」の利害関係を有するに至った第三者に限定するのが、通説といえようか。「新たな」については、虚偽表示の前後を考察し、虚偽表示以前にも法律関係を有していた場合には、「第三者」(§94 II)でなく、これに教科書類は心血を注いでいる。また「独立した」については、当事者と第三者との独立性=無関係性がメルクマール・試金石となるが、これについても教科書類は多く論じられている。しかし「法律上の」については、この判例を挙げるだけで、なぜこの判例が「第三者」(§94 II)に該当しないとしたのか、具体的に理由は示されていない。

そうであるならば市井の法適用学者の民骨さんの出番である(笑笑)。民集不登載の判例であるが、山椒も小粒であってもピリリと辛い。山椒が決め手の麻婆豆腐、どう料理したらミツボシ☆☆☆シェフとなることができようか?

 

出典

判タ475号66頁(1982/10/15)、LEX/DB27442242

 

当事者関係

X:本件土地所有者(原告、被控訴人、被上告人)

Y:本件土地上建物賃借人(被告、控訴人、上告人)

A:本件土地所有者、Xの被相続人

B:Aからの「虚偽」土地譲受人

時系列表

判タ475号によってまとめることにする。

S.37.09.06

S.39~

S.40.10.05

S.41.

S.54.11.13

Xの先代A、原因を「S.31.10.15譲渡」とするBへの本件土地の所有権移転登記

B、本件土地上に本件建物を建築

B、本件建物を店舗としてYに賃貸

A、死亡。X、Aの地位を承継

X、Bに対して所有権確認・本件建物収去本件土地明渡請求訴訟提起

A(X)からBへの譲渡(売買契約)、虚偽表示であることが確定

最高裁で確定したのだが、A→B譲渡がなぜ、虚偽表示であったのか? これについて掲載誌判タ475-66によれば、「本件土地の売買契約(A→B)は区画整理や不法占拠者対策の必要などから締結された虚偽仮装のものであることが認められ…確定した」とあるが、これ以上は詮索できない。判例解析上、A→B譲渡が、虚偽表示であったことを確認できれば十分である。

訴訟物・請求の趣旨

事件名が「建物退去土地明渡請求事件」とある。「建物収去土地建物明渡請求事件」はお馴染であるが、「建物退去土地明渡請求事件」とは? ここにこの判例を学ぶヒントがある。Xが所有者であるから、「建物収去土地明渡請求」に準じたものであることが推測できる。物権的請求権は、本件土地上の建物を占有していることによって現実的にその土地を占有しているYに対するものである。こで「XのYに対する本件土地所有権に基づく返還請求権としての建物退去土地明渡請求権」となろうか。

請求の趣旨は、通常ならば第1審を参照すれば判明するのだが、ここでは推定するしかできない。

訴訟物:XのYに対する土地所有権に基づく本件土地返還請求権としての建物収去土地明渡請求権」

請求の趣旨:「YはXに対し、本件建物を退去し土地を明渡せ」

判旨と判決理由

Yの上告に対して判旨は「上告棄却」であるので、「Yの請求棄却」ということになる。

判例分析

判決理由中Xにとって有利な部分と、Yにとって有利な部分を分析していこう。

土地の仮装譲受人が右土地上に建物を建築してこれを他人に賃貸した場合、右建物賃借人は、仮装譲渡された土地については法律上の利害関係を有するものとは認められないから、法94条2項所定の第三者にはあたらないと解するのが相当である。

判例解析

判例分析しようにも、Xに有利な部分しかない。このままでは山椒だけの麻婆豆腐となってしまうのか。1審・原審ともXの請求認容である。とりあえず解析してみよう。

【X1番枠】

訴訟物が「XのYに対する土地所有権に基づく返還請求権としての建物退去土地明渡請求権」であるから、根拠条文は§206となる。Yが本件土地上の建物を占有することによって本件土地を占有しているから、Yに対する土地返還請求権を主張することになる。

【Y1番枠】

これに対してYは、建物占有権原として当然Bとの建物賃貸借契約による建物賃借権を主張する。

【X2番枠】

Xが土地に関して、Bへの譲渡契約(売買契約)が虚偽表示により無効であること(§94 I)を主張する。

【Y2番枠】

するとA(X)のBへの土地譲渡契約が虚偽表示であっても、そのことの事情をしらない善意のYに対抗できないと、当然Yは主張することになる。

【X3番枠】

そこで「建物賃借人は、仮装譲渡された土地については法律上の利害関係を有するものとは認められない」 という判決理由である。これだけでYの請求は棄却された。

1審から最高裁まで、一貫した理由である。どう理解すべきか?

下線を引いたがXの訴訟物から一貫して、Xの本件土地所有権についての主張である。それに対してYが主張するのは、YのBとの建物賃貸借権契約に基づく建物賃借権である。相互の主張が平行線ではなく、ねじれの位置にある。詳論するとXが土地所有権に基づく請求をしているのに対して、YはBとの建物賃貸借契約に基づく建物賃借権を主張している。したがって、Xが土地所有権を訴訟物の基礎としているのに対して、YはXの土地所有権を争わず、Bから設定を受けた建物賃借権を主張しているということである。

したがって、Yは、Xが主張する土地所有権の帰属について§94Iを主張しているのに対して、YはXの土地所有権の帰属については何も言及していない。すなわちYはXの土地所有権について、法律上の利害を有する「第三者」(§94 II)ではない。建物賃借人は、仮装譲渡された土地については法律上の利害関係を有するものとは認められない。

解析結果

Xの主張

Yの主張

① X=本件土地の所有者

② Y=本件土地の占有者

(1)  本件土地上に本件建物あり

(2)  Y=本件建物の占有者

占有権原

Y、Bと本件土地建物について建物賃貸借契約と締結

∴建物賃借権あり

§94 I

①A( X)の意思表示(本件土地のA(X)→B譲渡)

② A (X)の意思≠ A (X)表示

③  A (X)・Bの通謀

⇒①の無効

Y=§94Ⅱの第三者

① A(X)→Bの意思表示(売買契約)

② 意思(売買意思なし)≠表示(売買)

③ A・Bの通謀

④ Y=善意の第三者

Yの利害関係は事実上のものにすぎない

(Yの利害関係は建物に関するものであって、本件土地に関するものではない)

終わりに

割合と今回の判例は、解析が容易であった、と思う人がいるかもしれない。Xの訴訟物は土地所有権に基づくものであった。それに対してYは建物賃借権で対抗していた。このX「土地」、Y{建物」という法的「ねじれの位置」を把握できただろうか。判決理由中の「土地についての法律上の利害関係」をしっかりと把握できたならば、三星☆☆☆シェフの素質は十分である。既にそうか?判決理由はわずか一文の小粒の判例である。この判例の解析を充分に「調理」しえただろうか?

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