最判平成11.02.23(平成7年(オ)第1747号)

総則

はじめに

任意法規と強行法規についての判例である。物権法定主義に立脚した物権法規定が強行法規であるのに対して、契約自由の原則に基づく債権法規定は任意法規であると一般的に言われる。今回問題となる組合に関する債権法規定は、どちらであろうか?

出典

民集第53巻2号193頁、LEX/DB28040415

百選I(第8版)017事件

当事者関係

原告X1・2の2人、被告はY1~Y5の5人。

時系列表

事件名は「立替金返還請求事件」となっているが、判示事項ではX1・2の組合脱退とそれに伴う出資金の支払いが主要論点となっている。市販判例集では時系列表のa、c、dのみの事実を挙げているが、X1・2が組合から脱退する決意を固めるまでに、立替払い金をY1~5が支払ってくれなかったことが重要な事実として浮かび上がってくるし、判例解析をする上でも重要となってくる。

H.02.11 X1・2,Y1~5、100万円/口の共同出資によるヨット購入・利用契約を目的とする組合契約締結a
期間の定めなし
「オーナー会議で承認された相手方に対して譲渡することができる。譲渡した月の月末をもって退会とする」旨の退会規定を含む

H.03.01末
X1・2(各-100万円),Y1(-50万円)がヨットクラブ係留権取得のために別件中古ヨット(250万円)購入b-1
H.03.01.30 X1・2,Y1~5、1400万円のヨットを共同購入c
別件中古ヨットを130万円で売却。売却金からY1、50万円(±0)X1、40万円(-60万円)、X2、40万円(-60万円)取得b-2

H.03.05頃
X1桟橋取替工事費用50万円立替払い(-60-50=-110万円)b-3
X1・X2、Y1~Y5に対して立替払い金の支払いを請求するけれどもY1~Y5は応じないb-4
H.03.08 X1・2、脱退の意思表示d

訴訟物と請求の趣旨

 「立替払金返還請求事件」としてならば、「XらのYらに対する事務管理に基づく費用償還請求権」となり、請求の趣旨はb1~b3の事実から「Yらは連帯してX1に対し、110万万円、X2に対して60万円を支払え」となるが、前述したとおり、これは主要論点でないので、今回は省略する。

 主要論点については以下の通りとなる。

訴訟物:XらのYらに対する組合脱退に基づく持分払戻請求権
請求の趣旨:「Yらは連帯してX1に対し、200万万円、X2に対して200万円を支払え」

 ちなみに1審では立替払い金と持分払戻分を合わせて「Yらは連帯してX1に対し、310万万円、X2に対して260万円を支払え」となっている。1審判決を見る場合に参考にされたい。

判旨

 Xらの上告に対して判旨は「破棄差戻し」であるので、Xらの上告が受け入れられている。したがって「Xらの請求認容?」ということになる。

 判決理由中Xにとって有利となる部分と、Yにとって有利となる部分を分析していこう。

一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 XらとYらは、平成2年11月ころ、1口100万円の出資をして共同でヨットを購入し、出資者が会員となり、ヨットを利用して航海を楽しむことなどを目的とするヨットクラブ(以下「本件クラブ」という。)を結成する旨の組合契約(以下「本件契約」という。)を締結した。なお、本件契約には、本件クラブの存続期間についての定めがない。
2 XらとYらは、本件契約に基づいて合計14口の出資をし(上告人らの出資口数は各2口である。)、平成3年1月30日、ヨット一隻(以下「本件ヨット」という。)を1400万円で購入した。
3 本件契約の内容となる本件クラブの規約には、会員の権利の譲渡及び退会に関して、「オーナー会議で承認された相手方に対して譲渡することができる。譲渡した月の月末をもって退会とする。(これは、不良なオーナーをふせぐ為である。)」との規定(以下「本件規定」という。)がある。
4 本件規定が設けられたのは、本件クラブが、資産として本件ヨットを有するだけで、資金的・財政的余裕がなく、出資金の払戻しをする財源を有しないこと、本件クラブでは、会員の数が少ないと月会費や作業の負担が増えるので,会員の数を減らさないようにする必要があることによるものである。

二 Xらは、本件において、Yらに対し、本件ヨットの係留権取得費用及び桟橋工事費の各立替金並びにこれらに対する遅延損害金のほか、平成3年8月に被上告人らに対して本件クラブから脱退する旨の意思表示をしたとして、当時の本件ヨットの時価額をX1・X2の出資割合に応じて案分した額の組合持分の払戻金及びこれに対する遅延損害金をそれぞれ請求しているXらは、右意思表示をしたことにはやむを得ない事由がある本件規定が会員の権利を譲渡する以外の方法による本件クラブからの任意の脱退を認めない趣旨であるとすれば、本件規定は公序良俗に反する、と主張している。 
三 前記事実関係の下において、原審は、次のとおり判示して、Xらの組合持分払戻金及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却すべきものと判断した。
1 本件規定は、本件クラブからの任意の脱退は、会員の権利を譲渡する方法によってのみすることができ、それ以外の方法によることは許さない旨を定めたものである
2 本件規定が設けられたことには、一4のとおり合理的な理由がある上、本件クラブの会員は、やむを得ない事由があるときは、本件クラブの解散請求をすることもできる。したがって、本件規定は、公序良俗に反するとはいえず、有効であり、XらがYらに対して脱退の意思表示をしてもその効力を生じないから、その余の点について判断するまでもなく、Xらの持分払戻金請求は理由がない。
四 しかしながら、原審の三2の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 民法678条は、組合員は、やむを得ない事由がある場合には、組合の存続期間の定めの有無にかかわらず、常に組合から任意に脱退することができる旨を規定しているものと解されるところ、同条のうち右の旨を規定する部分は、強行法規であり、これに反する組合契約における約定は効力を有しないものと解するのが相当である。けだし、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約は、組合員の自由を著しく制限するものであり、公の秩序に反するものというべきだからである。
2 本件規定は、これを三1のとおりの趣旨に解釈するとすれば、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さないものとしていることになるから、その限度において、民法678条に違反し、効力を有しないものというべきである。このことは、本件規定が設けられたことについて一4のとおりの理由があり本件クラブの会員は、会員の権利を譲渡し、又は解散請求をすることができるという事情があっても、異なるものではない
五 右と異なる見解に立って、やむを得ない事由の存否について判断するまでもなくXらの被上告人らに対する脱退の意思表示が効力を生じないものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨の論旨は理由があり、原判決中、Xらの組合持分払戻金及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した部分は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れず、やむを得ない事由の存否等につき更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分を原審に差し戻すこととする。

これで材料は整った。次に実際に判例解析に入ろう。

判例解析

【X1番枠】

訴訟物が「XらのYらに対する組合脱退に基づく持分払戻請求権」であるから、Xが言わなければならないのは、先ずⒶ 組合の成立(§ 667)、Ⓑ  組合からの脱退(§ 678 I本=678条1項本文)を主張しなければならい。しかし組合からの脱退を規定する§ 678には、持分払戻請求権についての言及はない。すると「持分」とあるから、Ⓒ「共有物分割請求」の規定を使うが、そこで組合財産が「共有」であること(§ 668)も思い出してもらいたい。

【Y1番枠】

判決理由から、YらはXらの組合脱退を否定することによって、それを前提とする持分払戻請求権を否定資料としている。一般にある当事者がある条文の本文(原則的な法適用)を主張してきた場合、相手方が同じ条文の但し書き(例外的な法適用)を主張することが基本である。ここでもXが§ 678 I 本を主張したことに対して、Yらは§ 678 I 但(=678条1項但し書き)を主張し、Xらの脱退がYらにとって不利な時期の脱退を主張することになるから、その時期のXらの脱退を認めないと主張することになる。具体的に不利な時期とは何かを事実関係から考えると、「本件クラブが、資産として本件ヨットを有するだけで、資金的・財政的余裕がなく、出資金の払戻しをする財源を有しないこと、本件クラブでは、会員の数が少ないと月会費や作業の負担が増えるので,会員の数を減らさないようにする必要」ということが判決理由中(一4)にあった。これを用いたものと思われる。

【X2番枠】

Yらの主張に対して、Xらは§ 678 IIを用いると組合脱退への主張を補強することになる。そうすると、同条項にある「やむを得ない事由」を明らかにしなければならない。判決理由中の上告理由と思われる部分には「本件ヨットの係留権取得費用及び桟橋工事費の各立替金並びにこれらに対する遅延損害金のほか、平成3年8月に被上告人らに対して本件クラブから脱退する旨の意思表示をしたとして、当時の本件ヨットの時価額をX1・X2の出資割合に応じて案分した額の組合持分の払戻金及びこれに対する遅延損害金をそれぞれ請求している。Xらは、右意思表示をしたことにはやむを得ない事由がある」(二)とある。もう少し敷衍すると、いろいろと組合のために尽力したにもかかわらず、正当な事務管理の費用償還にも応じてくれず、Yらに対する信頼関係が破綻したといってもよいだろう。

【Y2番枠】

これに対しては、組合規定をYらは当然主張する。そこでは「本件クラブからの任意の脱退は、会員の権利を譲渡する方法によってのみすることができ、それ以外の方法によることは許さない」(三1)とあるので、会員の権利を譲渡していない以上脱退が認められない旨主張するだろう。

【X3番枠】

そうするとXらとしては、この規定の効力を否定しなければならない。上告理由と思われる部分では「本件規定は公序良俗に反する」とXらが主張している(二)。そうすると§ 90を適用するのかとも思われるが、第三小法廷はその道を取らなかった。この規定が§ 678と背反することは明らかだが、同条が強行法規であると判示している(§ 91)。そうするとⒶ「本件規定が会員の権利を譲渡する以外の方法による本件クラブからの任意の脱退を認めない」ことがなぜ「やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約」となるのか、Ⓑ 「やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約」がなぜ「組合員の自由を著しく制限するものであり、公の秩序に反する」のかを明らかにする必要がある。

Ⓐ 「本件規定が会員の権利を譲渡する以外の方法による本件クラブからの任意の脱退を認めない」ことは、本件規定で「オーナー会議で承認された相手方に対して譲渡することができる」がヒントとなろう。つまりXらが脱退したいと思っても、Yらが承認するような譲受人を見つけない限り脱退できないし、またたとえ譲受人を見つけてもYらが承認をしなければ、その場合もXらの脱退はできない。実質的にXらの脱退の可能性は非常に少ないことになる。したがって「任意脱退を許さない旨の組合契約」と言えよう。

Ⓑ 「やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約」が「組合員の自由を著しく制限する」とある。個人の自由と関係するのは、憲法であるが、民法規定でも2条がある。そのような組合契約が「個人の尊厳に反する」ことになるが、憲法の個人の自由な人権と反することを明らかにする必要がある。脱退と近い基本的人権は、結社の自由(憲法21 I)である。結社の自由には当然脱退の自由、解散の自由を含むと学んだだろう。すると脱退を許さないことは、個人を不当に拘束し個人の尊厳に反すると言えよう。

【Y3番枠】

これに対してYらは、§ 678が任意規定であること、これらの規定が合理的な理由があること等があると主張することになるが(四2)。

【X4番枠】

そうであっても、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さないものとしている限度において強行規定である§ 678に違反し、効力を有しないことには異ならない(四2)ということになろう。

解析結果

Xの主張 Yの主張
1. XらYら組合契約の成立【§ 667I】a
 ① 共同の事業(ヨットの購入・利用等)
 ② 出資(200万円ずつ出資)
2.組合員の脱退の意思表示【§ 678I本】d
 ① 組合契約の成立
 ② 組合契約に存続期間の定めなし
 ③ Xらの脱退の意思表示
3.共有物分割請求【§ 256I】
 ① 組合財産=共有【§ 668】
⇒分割請求権としての持分払戻請求
 
  Xらの脱退=組合にとって不利な時期【§678I但】
(Xらが脱退すると組合の維持不可
  資金的・財政的余裕がない
  出資金の払戻しをする財源を有しない
  会員の数が少ないと月会費や作業の負担が増える)
Xらの脱退のやむを得ない事由【§ 678 I 但】
(信頼関係の破綻:←Xらの事務管理に対して、
          Yらが正当に報いなかった)
 
  本件組合規定
「やむを得ない事由があっても、他の全組合員が
承認できる新組合員に対する会員権譲渡でしか脱退できない」
強行法規違反【§ 91】
① 意思表示(事実上任意脱退不可の本件組合規定)
② ①が§ 678と異なる
③ § 678が強行法規
  公序良俗に反する
 ∵結社の自由を保障(憲法21I)に反して個人の尊
 厳に反し【§2】、公序良俗に反する
⇒ 本件組合規定無効
公序良俗違反
① 法律行為(事実上任意脱退不可の本件組合規定)
② ①が公序良俗違反
 ∵結社の自由を保障(憲法21I)に反して個人の尊
 厳に反し【§2】、公序良俗に反する
⇒本件組合規定無効
 
  § 678が任意規定
本件組合規定に合理的理由あり
(・ 不良なオーナーをふせぐ目的
 ・ 組合維持のため会員数減を防ぐ必要
 ・完全に脱退できないわけではない
 ・解散請求可能)[原審判断]
やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない
ものとしている限度において本件組合規定は強行規
定である§ 678に違反し、効力を有しないことには異ならない
 

終わりに

法律上の論理の流れはそれほど難しいものではない。しかし実際に判決理由で言われていることを事実と結び付けて論旨をまとめていくことは、結構大変である。今回は【X3番枠】のところで問題となった、なぜ本件組合規定が任意脱退を許さないのか、なぜそれが公序良俗に反し、強行法規違反となるのか、という点であるそこを「判例同旨」とか、「判例が言っているのだから仕方がない」とするのでは、おいしいところを捨て去ることになる。まさに法律の条文を事実と結び付ける、法の適用ということに徹してもらいたい。そうすると論理的に自分が納得できる解析を進めることができよう。また条文の知識もさらに磨かれるだろう。

オマケ

「訴訟物・請求の趣旨」で主要でないから割愛した「立替金返還請求権」の部分を補充しておく。Xらの行為は義務がないのにYら他人のために事務の管理を始めたものと言えるので、事務管理(§§ 697~)に該当する。すると「立替金返還請求」に該当する条文は§ 702となる。訴訟物と請求の趣旨は以下の通り。

訴訟物:XらのYらに対する事務管理に基づく費用償還請求権としての立替金返還請求
請求の趣旨:「Yらは連帯してX1に対し、310万万円、X2に対して260万円を支払え」⑦

【X1番枠】は以下の通り。

費用償還請求【§ 702 I】
① XらによるYの事務管理【§ 697 I】
 (1) Xらの事務管理(係留権の取得、桟橋工事)
 (2) (1)につきXらに義務なし
② ①をYらのためにする
③ 有益費の支出(X1、110万円、X2、60万円)
⇒XらのYらに対する事務管理に基づく費用償還請求

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