最判平成元.10.27(昭和60年(オ)1270号)

担保物権法

はじめに

担保物権は、担保目的物の交換価値を把握し、その物の処分権能を有する権利である。そして担保目的物が何らかの価値代替物へ変じた場合、その価値代替物へも追及できること「が物上代位」として知られている。物上代位が認められるのは、先取特権(§ 304)、質権(§ 350)、そして抵当権(§ 370)である。

抵当権の目的物が、滅失して保険金債権に変じた場合、価値代替物である保険金債権に物上代位できるのは明確である。しかし抵当権の目的物が現存し、そこからの果実である賃料債権を価値代替物として、それに物上代位は可能なのか?

 

出典

民集第43巻9号1070頁、LEX / DB27805063
百選I(第8版)087事件

当事者

X:抵当権目的物(本件建物)所有者(原告、控訴人、上告人)
Y:抵当権者(被告、被告人、被上告人)
A:本件消費元所有者、設定者
B:本件建物賃借

時系列表

A、BにA所有の本件建物を賃貸
S.55.07 A、Yのために根抵当権設定
S.57.04.19 A、本件建物をXに譲渡、X、賃貸人の地位を承継
S.57.1​​1.30 Yの先先抵当権者の抵当権競売締立

B、S.57.1​​2〜S.58.07の賃料532万円を供託

Y、物上代位、XのBに対する債権の差押え

S.58.08 Y、転付供託金て供託金の供託

訴訟物・請求の趣旨

訴訟物は事件名から明白。『考え方と実務(第4版)』387頁以下では、「XのYに対する不当利得に基づく利得返還請求権」となっているが、『要件事実民法(第6版)』39頁では単に「XのYに対する不当利得返還請求権」となっている。訴訟の対象である権利を特定するものとしてならば、どちらでもよいだろう。民骨さんは後者を採用する。

訴訟物:XのYに対する不当利得返還請求権

請求の趣旨:「YはXに対し、532万円を支払え」

判旨

Xの上告に対して判旨は「上告棄却」であるので、「Xらの請求棄却」ということになる。

判例の分析

判決理由中Xにとって有利な部分と、Yにとって有利な部分を分析していこう。

抵当権の目的不動産が賃貸された場合においては,抵当権者は、民法372条、304条の規定の趣旨に従い、目的不動産の賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、民法372条によって先取特権に関する同法304条の規定が抵当権にも準用されているところ、抵当権は、目的物に対する占有を抵当権設定者の下にとどめ、設定者が目的物を自ら使用し又は第三者に使用させることを許す性質の担保権であるが、抵当権のこのような性質は先取特権と異なるものではないし、抵当権設定者が目的物を第三者に使用させることによって対価を取得した場合に、右対価について抵当権を行使することができるものと解したとしても、抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げることにはならないから、前記規定に反してまで目的物の賃料について抵当権を行使することができないと解すべき理由はなく、また賃料が供託された場合には、賃料債権に準ずるものとして供託金還付請求権について抵当権を行使することができるものというべきだからである。

そして、目的不動産について抵当権を実行しうる場合であっても、物上代位の目的となる金銭その他の物について抵当権を行使することができることは、当裁判所の判例の趣旨とするところであり(最高裁判所昭和42年(オ)第342号同45年7月16日第1小法廷判決・民集24巻7号964頁参照)、目的不動産に対して抵当権が実行されている場合でも、右実行の結果抵当権が消滅するまでは、賃料債権ないしこれに代わる供託金還付請求権に対しても抵当権を行使することができるものというべきである。

判例解析

【X1番枠】

訴訟物が「XのYに対する不当利得返還請求権」であるから、根拠条文は§703となる。そこでいうべきであるのは、Yの利得に「法律上の原因」がないことを時系列表から明らかにする必要がある。Bが供託した賃料を本来Xが受領すべきであるのに、Yが還付を受けたことについて「法律上の原因」がないとすることになる。

【Y1番枠】

「法律上の原因」がないとされたことに対して、Yとしてはそれがあると主張することになる。ここは物上代位をしたことの法律効果であることである。

【X2番枠】

分析中、Xにとって有利な部分が少ないが、そのうち「抵当権は、目的物に対する占有を抵当権設定者の下にとどめ、設定者が目的物を自ら使用し又は第三者に使用させることを許す性質の担保権である」ということが使えそうである。そして、「目的物の賃料について抵当権を行使することができない」とすることは、設定者に使用収益権があるのだから、これに対して抵当権者が権利行使できないと主張することになる。

【Y2番枠】

これに対してYにとって有利な部分は、直後の「抵当権設定者が目的物を第三者に使用させることによって対価を取得した場合に、右対価について抵当権を行使することができるものと解したとしても、抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げることにはならない」が対応しよう。また「前記規定に反」することも理由となろうか。

【X3番枠】

判決理由にないが、無条件でYが、Xの取得すべき賃料に物上代位ができるとしたら、抵当権が設定者Xに認めた収益権が無に帰してしまい、不当であると主張したい。民骨さんとしては、ここで物上代位の目的が限定されるのか否かを論じておきたいからである。

【Y3番枠】

そうすると、物上代位は抵当権の行使であるのだから、抵当権の目的物の範囲について規定する§371が使える。「不履行」を「他の抵当権者による実行申し立て」があることから、その「他の抵当権者」において抵当権の被担保債権の不履行があったことは明白である。したがって、Yが還付を受けた賃料は§371による被担保債権不履行後の果実である。

【X4番枠】

最終段落(「そして~」)において、「目的不動産について抵当権を実行しうる場合であっても」ということがあり、それで物上代位ができないことと結び付けて、Xが何を主張したかを考える。すると、抵当権実行がなされ目的物が競売される場合、他の抵当権者は配当要求をして、配当受けるのが本筋であると主張したくなる。また実際に配当要求しているならば、物上代位はできないと主張することが考えられる。また1審で論じられたところであるが、もしも配当で満足ができない場合に限って、初めて物上代位ができると主張することも、その後のY4番枠との関係から考えられる。要するに物上代位は、補助的なものと主張することである。

【Y4番枠】

それに対して判決理由では「抵当権が消滅するまでは、賃料債権ないしこれに代わる供託金還付請求権に対しても抵当権を行使することができる」とある。

解析

Xの主張

Yの主張

不当利得返還不当利得

① Xの損失(Bに対する賃料債権)

② Yの利得

③ ①②の因果関係

④ ②に法律上の原因なし(抵当権者に収益権なし)

Yの物上代位権(抵当権行使)(§372→§304)

① Y=抵当権者

② 目的物の売却・賃貸・滅失・損傷

③ ②によるXが受けるべき金銭

④ Yの差押え

抵当権は使用収益権限のない非占有担保権→目的物利用の対価である供託金還付請求権に物上代位不可
・§§372・304の要件②に「賃貸」があり、③②によるXが受けるべき金銭について物上代位できるという規定に反する

・抵当権設定者が取得する賃料について抵当権を行使することができると解しても、抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げることにはならない

無条件に賃料債権に物上代位ができるとしたら、Xの使用収益権は実質上ないに等しい
§371

① 被担保債権の不履行

② ①以後の果実(Yが幹部を受けた賃料債権)

⇒②に抵当権の効力及ぶ

・Yは本件建物の競売に際し抵当権行使して配当要求したので、物上代位不可。

・抵当権者が目的物の換価によって満足を得られない場合、賃料債権への物上代位権行使可[1審原審判断]

抵当権が消滅するまでは、賃料債権に代わる供託金還付請求権に対しても抵当権を行使(=物上代位)することができる

終わりに

教科書等では「物上代位権の行使」となっているものが多いが、判決理由で明確に「抵当権の行使」としている。つまり物上代位自体抵当権の行使(実行)であると考えることが重要であろう。

 

 

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