最判平成14.03.12平成12年(受)第890号

担保物権法

はじめに

§372が準用する§304 I 但の「払渡し又は引渡し」については、学説ではいろいろと言われている。債権譲渡されただけであれば、これに該当しないとする最判H.10.01.13(平成6年(オ)1408号)という判例がある。そうすると差押え債権者が、転付命令を得た場合、それを「法定債権譲渡」ととらえると、転付命令を得て第三債務者に送達されても、実際に弁済がなされるまで、「払渡し又は引渡し」がないことになり、被転付債権に物上代位をすることが可能となる。しかし民執法等の条文を忠実に検討すると、この結論は妥当だろうか?ある意味では条文から離れた学説にとらわれると、真実が見えなくなるかもしれない。民骨さんにとって説明できるのは、民法が関係する【X3番枠】までである。

出典

民集第56巻3号555、LEX/DB:28070493

当事者関係

X:一般債権者(原告、控訴人、上告人)

Y1:B信用保証協会、本件建物II番抵当権者(被告、被控訴人、被上告人)

Y2: 銀行、本件建物III番抵当権者(被告、被控訴人、被上告人)

A:保証会社、Y2銀行子会社、本件建物I番抵当権者

B:愛媛県

S:債務者

時系列表

S.54.04.04 S、Aのために本件建物に根抵当権設定Ⅰ
S.56.08.25 S、Y1のために本件建物に根抵当権設定Ⅱ
S.60.12.27 S、Y2のために本件建物に根抵当権設定Ⅲ(S.61.03.25にⅣ)
H.10.02.24

 

S、自己所有本件土地をBに売却(道路用地):

土地代金1143万円;建物移転補償金8784万円

H.10.03.17

 

 

B、Sへ土地代金800万円・補償金5740万円を支払う

S本人へ1980万円;その他A・Y1・Y2等でBから代理受領

残代金(土地代金甲債権343万円;補償金乙債権3044万円)についても代理受領を予定

同日 上記事実を知ったX、SのBに対する甲債権の全額、乙両債権のうち1057万円につき差押命令を取得

←X,Sらとの間の執行力ある和解調書の正本

H.10.03.19 Xの取得した差押命令、Bに送達
H.10.03.23 Xの取得した差押命令、Sに送達
H.10.04.17 Xの取得した差押命令、確定(←Xの取得した差押命令に対するSの執行抗告の棄却)
H.10.05.06 X、甲乙両債権のうち1057万円につき転付命令を取得
H.10.05.07 Xの取得した転付命令、SBに送達
H.10.05.13 A、Xの取得した転付命令に対し執行抗告
H.10.05.13 乙債権のうちY2:847万円Y1:1460万円A:735万円の差押命令を取得(←物上代位)
H.10.05.14 Y1Y2Aの取得した差押命令、Bに送達
H.10.05.20 Xの取得した転付命令、確定(←Xの取得した転付命令に対するSの執行抗告の棄却)
H.10.08.28 B、甲乙両債権の全額3387万円を供託
H.10.10.20 配当表作成:A:1460万円、Y2:847万円、Y1:1460万円、X: 342万円≒甲債権額

民集に掲載されている事実はH.10.03.17のXの行動以後であり、法的にはそれで充分であるといえるが、内容がよく分からなかったので本判例の「調査官解説」(法曹時報56-11-157。『最高裁判所判例解説民事篇』所収)に基づき作成した。

金額(1万円単位)で誤差がでているが、1万円未満を切り捨てた結果である。

訴訟物・請求の趣旨

事件名が「配当異議事件」となっている。岡口基一『要件事実マニュアル(下)(初版?処分したため不明)』348頁では「配当表の変更又は新たな配当表の調製のために配当表の取消を求め得る法的地位」が訴訟物となっているが、最新の同『要件事実マニュアル 3(第6版)』では訴訟物が何であるかの記載はない(275頁以下参照)。一応初版?の説に従うことにする。

Xは甲債権についてほぼ全額配当されることになったが、乙債権については、0円であった。そこでXは1056万円の満足のために、III番抵当権者Y2への配当の全額847万、II番抵当権者Y1への配当1460万円のうち209万円に対して、異議の申出をした。したがってY2への配当:847万円→0円、Y1への配当:1460万円→1251万円とすることによって、847万円+209万円=1056万円の配当の増額を求めていることになる。

請求の趣旨は判決理由中(引用判例理由の冒頭)にある表現でよいと思う。

訴訟物:配当表の変更又は新たな配当表の調製のために配当表の取消を求め得る法的地位

請求の趣旨:「配当表の「配当金」欄のうち,Xへの配当額342万円を1400万円に、Y1への配当額1460万円を1251万円に,Y2への配当額847万円を0円にそれぞれ変更する」

判旨と判決理由

Xの上告に対して判旨は「一部破棄自判」であるが、実質的に「Xらの請求認容」ということになる。

判例分析

判決理由中Xにとって有利な部分と、Yにとって有利な部分を分析していこう。

 

2 本件は,Xが,Yらに対し,本件転付命令がYら及びAのした抵当権ないし根抵当権に基づく物上代位に優先すると主張して,上記配当表の「配当金」欄のうち,Xへの配当額342万6760円を1400万円に、Y1への配当額1460万6236円を1251万0831円に,同Y2への配当額847万7835円を0円にそれぞれ変更することを求める配当異議の訴えである。

原審は,前記事実関係の下で,賃料債権の譲渡につき第三者に対する対抗要件が備えられた後において,当該賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位による差押えを認めた当審の判決(最高裁平成9年(オ)第419号同10年1月30日第二小法廷判決・民集52巻1号1頁)を引用して,Yら及びAの抵当権ないし根抵当権に基づく物上代位がこれに先立つ本件転付命令に優先すると判示し,Xの本件請求を棄却すべきものとした。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1)転付命令に係る金銭債権(以下「被転付債権」という。)が抵当権の物上代位の目的となり得る場合においても,転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは,転付命令の効力を妨げることはできず,差押命令及び転付命令が確定したときには,転付命令が第三債務者に送達された時に被転付債権は差押債権者の債権及び執行費用の弁済に充当されたものとみなされ,抵当権者が被転付債権について抵当権の効力を主張することはできないものと解すべきである。けだし,転付命令は,金銭債権の実現のために差し押さえられた債権を換価するための一方法として,被転付債権を差押債権者に移転させるという法形式を採用したものであって,転付命令が第三債務者に送達された時に他の債権者が民事執行法159条3項に規定する差押等をしていないことを条件として,差押債権者に独占的満足を与えるものであり(民事執行法159条3項,160条),他方,抵当権者が物上代位により被転付債権に対し抵当権の効力を及ぼすためには,自ら被転付債権を差し押さえることを要し(最高裁平成13年(受)第91号同年10月25日第一小法廷判決・民集55巻6号975頁),この差押えは債権執行における差押えと同様の規律に服すべきものであり(同法193条1項後段,2項,194条),同法159条3項に規定する差押えに物上代位による差押えが含まれることは文理上明らかであることに照らせば,抵当権の物上代位としての差押えについて強制執行における差押えと異なる取扱いをすべき理由はなく,これを反対に解するときは,転付命令を規定した趣旨に反することになるからである。なお,原判決に引用された当審判決は,本件とは事案を異にし,適切ではない。

(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,Yらの抵当権又は根抵当権の物上代位としての差押えは,Xの得た転付命令の効力を妨げることはできず,乙債権中本件転付命令に係る部分はXの独占的満足に供されるべきであって,これについてYらの抵当権又は根抵当権の効力を主張することはできない。

これと異なる見解に基づき,Xの本件請求を理由がないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,この点をいう論旨は理由がある。

4 したがって,甲債権342万9363円及び乙債権中の本件転付命令に係る1057万0737円の合計1400万円はXに対して交付し,本件供託金からこれらの金額を控除した1987万4653円をA及びYにその順位に従って配当すべきであり,この計算によれば,Xに対してはその手続費用5890円及び債権の内金1399万4110円を交付すべきであり,Y2への配当金については,Y2に配当すべきものとされた847万7835円を0円とし,Y1への配当金については,Y1に配当すべきものとされた1460万6236円を1251万6721円に減額すべきこととなる。

そうすると,本件請求は,上記のとおり配当表の変更を求める限度で理由があるから認容し,その余は棄却すべきである。原判決及び第1審判決は,主文第1項のとおり変更すべきである。

判例解析

【X1番枠】

訴訟物が「配当表の変更又は新たな配当表の調製のために配当表の取消を求め得る法的地位」であるから、配当表が存在することと、Xが配当に異議を申し立てことが必要となる。

また配当受領権があることも主張する必要があろう。請求原因事実として必要とされることは、岡口『要件事実マニュアル 3(第6版)』279頁を参照されたい。

配当受領権は、当然転付命令を得たことである。

【Y1番枠】

Yらの配当受領権原は、抵当権の実行として物上代位である。

【X2番枠】

物上代位の差押え前に、Xが転付命令を取得、S・Bに送達によってその効力が発したことを主張し、Yらの物上代位に優先することを主張しなければならない。

【Y2番枠】

転付命令は、被転付債権が転付債権者に移転させるものととらえると、債権譲渡と変わりないものと主張できる。そうすると、最判平成10.01.30(平成6年(オ)1408号)で、債権譲渡では被譲渡債権が消滅していないことと同様、転付命令によって転付債権者Xが弁済受領したことにならないから、「払渡し又は引渡し」に該当せず、被転付債権に対して物上代位が可能と主張することになろう。

【X3番枠】

転付命令が効力発生する場合は、民執法160により、第三債務者に転付命令が送達された時に「弁済されたもの」とみなされるので、被転付債権が消滅し、それは§304 I但の「払渡し又は引渡し」に該当すると主張することになろう。判決理由中これについての関係箇所を見つけると「転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは,転付命令の効力を妨げることはできず,差押命令及び転付命令が確定したときには,転付命令が第三債務者に送達された時に被転付債権は差押債権者の債権及び執行費用の弁済に充当されたものとみなされ,抵当権者が被転付債権について抵当権の効力を主張することはできない」だろうが、そのうち「転付命令が第三債務者に送達された時に…弁済に充当したものとみなされ」をこの枠では採用したい。

【Y3番枠】

ここからは主として民事執行法の議論で、民骨さんは自信がないが、判決理由中の議論を追っておこう。

【X3番枠】で引用した中で、転付命令の確定との話が出てくる。そうすると、時系列表を見て、Yらの差押えがXの転付命令のS・Bの送達(H.10.05.07)後、Xの取得した転付命令の確定(H.10.05.20)前のH.10.05.13になされている。これは1審でY側が主張していたことであるが、これがここで問題にしてもよかろう。つまり転付命令が確定する前にYらが被転付債権を差し押さえたから、この差押えが優先するとし、さらには民執法159 IIIにより、転付命令の効力自体の否定を主張するかもしれない。しかし同項では「転付命令が第三債務者に送達されるまで」となっているので、民骨さんは無理筋だと思うが。

【X4番枠】

そうすると先の引用箇所を利用して、「転付命令が確定したときには,転付命令が第三債務者に送達された時に」転付命令の効果が発生したと主張することになる。

【Y4番枠】

【X5番枠】と関係する判決理由中の箇所は「抵当権の物上代位としての差押えについて強制執行における差押えと異なる取扱いをすべき理由はなく」である。ということはここで抵当権の物上代位の差押えは優先弁済権を有する抵当権者によるものであって、抵当権者に劣後する一般債権者の差押えに優先するとでもいったのだろうか。

【X5番枠】

抵当権実行(物上代位)の被転付債権の差押えと一般債権者の差押えが「同様の規律に服すべきものであり(同法193条1項後段,2項,194条),同法159条3項に規定する差押えに物上代位による差押えが含まれる」ということになろうか。

解析結果

Xの主張

Yの主張

配当異議

① 配当表の存在

② 配当期日にXの異議の申出

X:342万円→1400万円

Y1:1460万円→1251万円

Y2:847万円→0円

③ Xの配当受領権の発生

ア) 転付命令の発令(H.10.05.06)

イ) 第三債務者Bへの送達(H.10.05.07)

ウ) 差押命令の債務者Sへの送達

(H.10.05.07)【民執法159 II】

配当受領権の発生

物上代位【§304Ⅰ本】

① Y1Y2=(根)抵当権者

② 債務者Sが本件建物の移転

③ ②によりSが受け取るべき金銭残高(乙債権3044万円)

④ Y1Y2による差押(H.10.05.14)

⇒③に対し抵当権行使可

【§304Ⅰ但】

Y1Y2による差押前の「払渡し又は引渡し」

=転付命令送達(H.10.05.07)

∴Y1Y2の差押は「払渡し又は引渡し」後のもので、Xの転付命令に劣後 [上告理由]

「払渡又ハ引渡」≠転付命令送達

∵ 転付命令による債権の執行債権者への移転、

=「券面額によって執行債権が弁済された」とみなす

≠転付債権者の弁済受領

転付命令=債権譲渡[最判H.10.03.26]

転付命令≠債権譲渡

転付命令の第三債務者への送達

=「券面額での弁済」とみなす【民執160】

=転付債権消滅

転付命令確定(H.10.05.20)前のYらによる物上代位の差押え【民執159 III、V】
転付命令が確定したときには,転付命令が第三債務者に送達された時点で転付命令の効力発生
抵当権者=優先弁済権者

∴物上代位により被転付債権に対し抵当権の効力を及ぼすのに,自ら被転付債権を差し押さえること不要

物上代位の差押え>一般債権者の差押え・転付命令

・抵当権者が物上代位により被転付債権に対し抵当権の効力を及ぼすのに,自ら被転付債権の差押え必要

・差押えは債権執行における差押えと同様の規律に服すべし【民執193・194】

終わりに

訴訟物及び【Y3番枠】以下が民事執行法関連であるので、専門外の民骨さんには荷が重かった。

しかし判例は一貫して、「払渡し又は引渡し」を物上代位目的債権の消滅ととらえていることを確認しておこう。転付命令の機能から「法定債権譲渡」のような発想をすると、Yの主張に同調したくなる。しかし民執法160で明確に「差押命令及び転付命令が確定した場合においては、差押債権者の債権…は、…その券面額で、転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなす」と規定する。目的債権が消滅するのである。弁済前の被譲渡債権と明らかに相違する。この点を見逃すと、本判例でいうように「原判決に引用された当審判決は,本件とは事案を異にし,適切ではない」という誹りをうけることになろう。

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