基礎理論(その7)--条文適用と法的対話性

基礎編

条文を適用する場合、相手方がいることが一般的である。原告Xに法的請求する言い分があるとしても、請求される被告Yにもそれなりの言い分がある。

[A] 否認・[B] 不知

 まず、Yの不法行為自体が成立した事実はないとして、Xが主張する事実を否定したり(否認)、そのような事実を知らない(不知)、と主張することが考えられる。Xの主張とYの主張は、どのように展開するかを概観しよう。

XY
§709(=民法709条)
① Yの故意または過失
② Yの侵害行為(自転車走行中の衝突)
③ 損害の発生(打撲傷:治療費
5万円)
④ ②③の因果関係§709
⇒損害賠償請求(5万円)

[A] ①の事実(Yの過失)はない(=否認)
 (Xがぶつかってきた)
[B] ②の事実を知らない(=不知)
[A] 
Yに注意不足(=①過失)の事実がある
[B]
 Yは確かにXにぶつかったという②の事実がある

Yが否認または不知をしてきた場合、Xはその事実が存在することを立証しなければならず、もしもXがそれに成功したならば、訴訟はこれで終結してXの訴えは認容される。しかしXがこの立証に失敗すると、Xの訴えは棄却される。

[C] 自白・[D] 沈黙

 次にXが主張する売買契約成立の事実をYが認めたり(自白)、またはそれについて争わず、明確なことを主張しない(沈黙)ことが考えられる。

XY
① Yの故意または過失
② Yの侵害行為(自転車走行中の衝突)
③ 損害の発生(打撲傷:治療費5万円)
④ ②③の因果関係
⇒損害賠償
[C] Yの不法行為の事実を認める(=自白)
[D] 「……」(=沈黙)

Yが自白をしてきた場合、Xはその事実を証明する必要としないので(民訴法179)、その事実はそのまま裁判所に認定されて、訴訟はこれで終結し、Xの請求は認容される。またYが沈黙をしてその事実について積極的に争っていない場合も同様である。

[E] 抗弁

 最後に、Xが主張する不法行為の成立の事実をYが認めたり、またはそれについて積極的に争わなかったりするが、Xの過失(急な飛び出し等)をYが主張して、Xの損害賠償の減額を求めることが考えられる。

§722 II(=民法722条2項):
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

過失相殺の主張(=抗弁)である。

XY
§709
① Yの故意または過失
② Yの侵害行為(自転車走行中の衝突)
③ 損害の発生(打撲傷:治療費5万円)
④ ②③の因果関係
⇒損害賠償請求
[E]  § 722 II
① Yの不法行為
② 被害者
Xの過失(60%)
⇒Xの損害の60%が賠償額から減ぜられるべきである
[E] 
X
に過失なし(=否認)等

 Xの主張を認めながら、またはXの主張と矛盾せずに、X主張の効果(請求権の行使)を妨げる主張をすることを抗弁という。[A]ないし[D]の事例は、Xの事実の存否に関して決着し、法律的にはXが民法709条に基づいて損害賠償請求権自体が認められるか否か、ということにとどまる。しかし、YがXに対して、Xの主張と両立するがXの請求権の効力を制限・阻止する抗弁(「Xの主張するようにYの不法行為はあったかもしれないが、Xにも過失があり、Xの損害賠償額が減ぜられるべきである」)を主張することがある。

 それに対して、Xさらに、Yの主張を否認することができなければ、Yの主張が認められてしまう。したがってXはYの主張を否認したり、事例によってはYの抗弁と矛盾しない再抗弁を主張することがある。このように、実際の法の適用は、カードバトルのようなところがあり、Xがあるカードを出すと、それに対してYがそれよりも強いカードを出す。それを見てさらに強いカードをXが出す、ということが繰り返され、最終的に裁判官が勝者を決定するようにイメージすると分かりやすいだろう。そしてここでの「カード」は原則として法律条文であり、法的三段論法を駆使して、「カードを出す」のである。2列の枠はXとYのそれぞれの主張を順々に整理したものである。

 複雑な法律問題を解決するために、この2列の枠を活用すると、大いに役立つだろう。また、民法の条文をより多く学習することは、将来発生するかもしれない自分の紛争を解決できる「カード」多く獲得することになり、法的紛争をそれだけ有利に進めることができることを意味するので、大いに勉学に励んでほしい。

 この2列の枠の表を判例解析の結果を表すことになるので、「解析結果」と呼びたい。具体的にどのような意味を持つかを説明する。

XY
○○請求 
§■■■ ⇐【根拠条文】 
① ┐
② ├ ⇐【§■■■の要件】
③├┘
⇒〇〇 【§■■■の効果】     Ⅰ
§△△△

②  
⇒           Ⅱ
§▼▼▼
① §◆◆◆
 (1) ┐
 (2) ├ ⇐【§◆◆◆の要件】
 (3)┘

⇒                Ⅲ
[A]  ⇐【選択的主張】
             Ⅳ-1
[A]
   【[A]に対する反論】     Ⅳ-2
[B] ⇐【選択的主張】
              V
[B1]  【[B]に対する選択的反論】
[B2]   
                 V-2
[C]  ⇐【選択的主張】
[D]            VI-1
[C~D]
 【[C][D]に共通の反論】      VI-2
「X1番枠」Ⅰ  XがYに対して§■■■に基づき、○○請求をする。 
        §■■■の要件はそれぞれ①②③である。
「Y1番枠」Ⅱ それに対してYが§△△△に基づき反論する。
「X2番枠」III それに対してXが§▼▼▼に基づき反論する。
        §▼▼▼の要件①である§◆◆◆の要件は(1)(2)(3)である。
「Y2番枠」Ⅳ-1 それに対してYが選択的主張([A]~[D])の1番目として[A]を主張する。
「X3番枠」Ⅳ-2 Yの[A]の主張に対してXが反論する
「Y3番枠」V-1 Ⅲに対してYが選択的主張の2番目として[B]を主張する。
「X4番枠」V-2 Yの[B]の主張に対してXが[B1]または[B2]を選択的に反論する。
「Y4番枠」VI-1 Ⅲに対してYが選択的主張の3番目と4番目として[C][D]を主張する。
「X5番枠」VI-2 [C][D]に対する共通の応答を論じる。

「解析結果」は原則としてこのような意味を持っている。

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