基礎理論(その5)--民法条文と要件・効果

基礎編

 条文を適用しようとする場合、要件を条文から抽出しなければならない。例えば、Yが運転する自転車と歩行中にXがぶつかり、打撲傷(治療費5万円)を負った場合に、XがYに損害賠償請求しようとする場合を考える。この場合、被害者Xは何を主張(そして立証)しなければならないだろうか?

 法律問題は、法律の条文を適用して解決される。そして条文を適用しようとする場合、要件を条文から抽出しなければならない。例えば、被害者Xが加害者Yに対するこの場合の損害賠償請求権の根拠条文は、民法709条である。

§ 709(=民法709条)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した
者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う

 

ここから要件を抽出すると「(ある者=加害者が)故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」(大要件A)ことであり、効果は「これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(効果B)ということになる。このままで事実に適用できるか、どうかはあいまいになってしまう。そこで、これをさらに小要件に分割してみる。条文を分析してみると、

§ 709(=民法709条)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害賠償する責任を負う

その結果、

A① Yの故意または過失
A② Yの侵害行為
A③ 損害の発生
A④ A②A③の因果関係

となる。実際には大要件を分割した小要件を、「要件」(狭義)という。以後「要件」とは大要件を分割した小要件のことをいい、「小要件A①、A②、A③、A④」を「要件①、②、③、④」と表す。 条文の要件は、1つであることは少なく、大抵は複数ある。要件の分け方は、人に応じて多少異なってくるが、相手方を説得しやすいように分けることが必要である。条文から自力で要件に分けてみることを実行すると、他の法律条文を適用する訓練にもなるだろう。

 ①、②、③、④の全ての要件を満たしたら、被害者Xの加害者Yに対する不法行為に基づく損害賠償請求権は成立し、「加害者Y」は「これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という法律効果が生じる。

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